「蕎麦は耳食」という言葉があるらしいが、本当か?

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【ご質問】
「蕎麦は耳食」という言葉があるらしいが、本当か?
蕎麦は細く長いので、長寿を願う食べ物のはずだが、ここでの意味は、「蕎麦の消化は早いため、あまり縁起の良い食べ物ではない」という意味らしい。
諺か、もしくは、各地の風習だろうか?

【事前調査事項】
Googleで検索しても、出てこない。

以前にどちらかのHPかブログにて記載されたいたが、今は消失している。
なお、史記に「耳食」の項があるが、食を耳で聞いた話なので、関係ないと思われる。
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【回答】
調査いたしましたが、残念ながら「蕎麦は耳食」という言葉、「蕎麦の消化は早いため、あまり縁起の良い食べ物ではない」ということを書いた資料を見つけることはできませんでした。調査した資料には次のように書かれていました。

①『大漢和辞典巻9』<A1/711>p.184 耳食:聞いただけで物の味を判ずること。転じて徒に他人の説を聞いて其是非を考えず妄りに之に従ふ喩。『日本国語大辞典9巻』<813.1/3>p.530 耳食:耳に聞いてものの味を判断するの意から人の話のうわべを聞いただけで、物事の是非を十分に判断しないままに従うこと。不和雷同。

②そばが縁起の良いことを書いたものには『世界大百科事典16』<031/44N/16>p.432に「そばは始めは救荒食物や主食を補うものだったが、近世になりそば切りが流行しだすと変り物としてハレの食品にもされるようになった。年越しのそばはその代表である。」
『日本大百科全書14』<031/45/14>p.194に「年越そばの起源にはいくつかの説がある。月末の晦日が夜遅くまで忙しい商家で夜食に蕎麦を食べた習慣に基づくという説、金箔師が金銀細工の際、そば粉を打って伸ばし、飛び散った金銀の粉を吸着させたのにちなみ、金銀が集まる縁起を担いだとか、蕎麦殻を焼いた灰で使い古した器を洗うと長年の汚れが落ちることや胃腸のかすを流すそばの効用から、旧年の穢れを落とす、あるいは蕎麦がよく延びるので、年を延ばし幸福にという縁起を込めた等の諸説である。つごもりそば、運気蕎麦、運そばなどともよぶ。」とある。
そばが縁起の良くないことを書いた図書では次のものがあります。『風流江戸の蕎麦』<L2/2074N>p.76に「貝原益軒『大和本草』(宝永5年)に蕎麦は「性冷ナリ」とあり、朝川善庵の『善庵随筆』(嘉永3年)にも蕎麦ハ冷物ユヘ 脾胃虚弱ノ人ニ宜シカネバ、大小ニ麦ト一様ニ常食ニ充ツベキ物ニ非ズ(下略)とあるように、基本的に蕎麦は体を冷やしてしまうものなのである」
『本朝食鑑』<080/1>p.75では「蕎麦切の煮湯を蕎麦湯ともいう。『蕎切を食べた後、この湯を飲まねば、必ず中傷(病にかかる意か)される。』また『たとえ多食して腹が飽脹したとしても、この湯を飲むと害はない』といわれている。
『蕎麦の世界』<577/1169/#>p.293に「厚木市市島ではソバを栽培しない。永禄12年(1569)三増峠の合戦で敗れた甲州兵の一部が退路を誤って南へ逃げ市島まで来た時、一面に花が咲いているソバ畑を海と見間違え、絶望して自決したからだという。…福島県白河市の白石でもソバは作らない。先祖が伊達家に追われてこの地へ逃げて来たが、夜の闇の中にソバの花が家の裏一面に白く咲いているのを見て、海だと思って降伏したからだという。….ソバは毒にあることがあるという。…『多聞院日記天文十二年5月2日』の條に青ソバを食べて嘔吐した例、唐瘡に悩んだ例などを記している 。江戸時代に入ってからも、そばには毒があるとの風説が行われて、蕎麦を食う物がばったり絶えてしまったことがある」又この本のp.297に「文化十年(1813年)…そばを食すると死ぬという巷説がひろまり6月になるとソバやの客はとだえ、商売は上ったりになり、ついに休業する店も出て大いに困却した。この流説を打ち消すため芝居の中でわざわざ役者がそのことを しゃべる場面を設けたほどであった。(7月中村座上演『短夜仇艶書』『文月恨鮫鞘』)…妊婦はソバ粉・そば切りを食べてはならぬ(緒岡山県邑久郡)。身持ちにはそばが毒(佐渡)流産する(新潟県南蒲原郡・島根県安来市)胎盤が腐る(秋田県平鹿郡)」などがあります。

③余談ではありますが、『太陽1998.12No.458』<P06/1N>p.84に「そば屋と美しくつきあう十カ条 林屋たい平」の中に「九.音をたてて元気よくすするべし。…ひとたびたべはじめたら元気よく、大きな音をたてて口の中へと手繰りましょう。店中の客が全員一斉に注目ぐらいの音で。…その音もただ出せばいいというものではありません。そばは耳からも食す訳ですから小気味よい音でなるべく高温域を使ってチュルルリッ!!といきましょう」という文章がありました。

【参考資料】
・『風流江戸の蕎麦』(鈴木健一‖著中央公論新社2010.9)(L2/2074N)
http://p-opac.library.pref.osaka.jp/OSPLIB/webopac/kensaku/kensakuSyousai.jsp?tilcod=10021001771580
・『本朝食鑑 1 東洋文庫』(人見必大‖[著]平凡社1976.11)(080/1)
http://p-opac.library.pref.osaka.jp/OSPLIB/webopac/kensaku/kensakuSyousai.jsp?tilcod=10000000655498
・『蕎麦の世界』(新島繁‖共編柴田書店1985.9)(577/1169/#)
http://p-opac.library.pref.osaka.jp/OSPLIB/webopac/kensaku/kensakuSyousai.jsp?tilcod=10000000309150
・『太陽』(平凡社1998.12No.458)(P06/1N)
http://p-opac.library.pref.osaka.jp/OSPLIB/webopac/kensaku/kensakuSyousai.jsp?tilcod=29900001763227&volumeFlag=1

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