『清二』シナリオ-04
○神戸市中央区(車内)―《朝》《小雨》
アスコットの運転席ウィンドーから、スマートフォンが捨てられる。
後面ガラスが割れ、清二の左耳をかすり、運転席のレカロを貫通する。
清二「ちっ」
清二が左耳から血を流し、Aピラーの弾痕をみる。
小螢が運転席のシートを調節したあと、後写鏡で後方を確認する。清二が耳を押さえている。※かすっただけ。
小螢「降りて」
速度計は50を示している。
清二「無茶を言うな。誰だ? あれは?」
小螢「知らないほうがいい。関わると殺される。だから降りて」
清二「もう関わっている」
清二が左手の血を見る。凝固している。
清二「速度を落とせ。また事故になる」
小螢「無理」
清二「アクセルをゆるめろ。ブレーキをそっと踏め」
小螢「できない」
小螢の足が痙攣している。清二が助手席の背もたれを倒して移動して、右手でナルディ(ハンドル)をつかむと、小螢の両膝に左手をとおして、右足でブレーキを踏む。停車。切り替えレバーをPの位置にする。
小螢「わたし殺される」
小螢が両足に力をいれるが、清二がお姫様だっこして腰をずらし、運転席に移動する。
清二「ともかく安全な場所か……」
○神戸市中央区(車内)―《朝》《小雨》
500Eを黒塚が運転している。助手席(右側)に秋詠。
黒塚「助けんでもええのに」
秋詠「情けは人の為ならず」
黒塚「死ぬ言うに」
秋詠「——そう言うな。私たちと違って、善人なんだよ、村田清二さんは」
黒塚「善人ほど厄介なもんはないやろ」
黒塚が500Eを停車させる。
黒塚〈——私だ。状況は?〉フランス語
字幕「私だ。状況は?」
黒塚がスマートフォンで確認する。
秋詠N(ナレーション)「フランス語?」
狙撃手《追撃部隊は5名。うち狙撃手1名および観測手1名。防犯カメラの停止を確認。発砲しますか?》フランス語
字幕「追撃部隊は5名。うち狙撃手1名および観測手1名。防犯カメラの停止を確認。発砲しますか?」
黒塚〈狙撃手1名および観測手1名の2名を排除せよ。残り3名はそのまま追わせろ。開始〉フランス語
字幕「狙撃手1名および観測手1名の2名を排除せよ。残り3名はそのまま追わせろ。開始」
狙撃手《了解》フランス語
字幕「了解」
黒塚がスマートフォンで状況を確認しながら、顔を動かさずに右隣の秋詠を見る。
黒塚「理由聞けへんのか?」
秋詠「不可抗力だろう。少女16歳の職業は想像しにくい」
黒塚「そっちやない」
秋詠「はあ……すう……ふう……聞かないよ。人まで死んでいる。余計なことを聞いて生き残った例(ためし)はない」
深呼吸してから答える。
黒塚「名前は小螢(シャオイン)。13歳。本名は馬泰螢(マ・タイイン)……」
黒塚がタブレットを見せた。
表示「馬泰螢(Mǎ tài yíng)」
秋詠N「後で消されるな……」
黒塚「本日0053(マル・マル・ゴー・サン)、研究所から小螢が脱走した。目的は回収。旦那が手伝ってくれると嬉しいんやがな」
秋詠N「0時53分(ぜろじごじゅうさんぷん)……ミスティと会ったぐらいかしら……」
秋詠「敵さんは?」
黒塚「確認中やが、三合会(さんごうかい)なんは間違いない。おそらくその一派や。小螢を殺す気や」
秋詠「あなたの雇い主は?」
黒塚「ん? 何言うとんねん。は? 知らんかったんかいな」
秋詠「何がだ?」
黒塚「小螢が脱走したんは、LVMの研究所やで?」
秋詠「すう……ふう……」
秋詠がうなだれながら深呼吸する。
秋詠「珠子(たまこ)さんが業務改善の依頼をしたエル・ヴェ・マテリエル製薬の神戸研究所から脱走?」
黒塚「そう言うた」
秋詠「確認を……いや」
黒塚の眼光。
秋詠「直接確認したら、あなたが雇い主を言ったことになるのか……。神戸研究所に連絡して、村田さんの替わりに私が行くとしますか……」
黒塚「手伝えよ」
秋詠「私は頭脳労働者なんだ。肉体労働はベッドの上だけと決めている」
黒塚「殊勝な」
秋詠N「泰螢(タイイン)……水と火。水火既済(すいかきせい)……」
秋詠が口をうごかすのを黒塚が見ている。
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