「虎は虎のままで美しい」という話
虎は虎のままで美しい。虎に角や翼は要らない。虎を虎のままで描いてはつまらないのではなく、虎を描ききれない自分がいるだけだ。
――山本貴嗣
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山本貴嗣『M4 Featuring METALMAX MOMO』
https://www.mangaz.com/book/detail/143711
【作品解説4】サンダーボーイ&あとがき
同業者である他のマンガ家から、最近の山本は細かいことにこだわり過ぎとの批判を受けることもあるが、いかに俗物の私でもこと武術に関しては居住まいを正す。そうせざるを得ないものがあるのである。
たとえて言うと、裏千家の茶人という登場人物が出てきて、片ひざついて茶をたてたりはしない。そんな図を描くマンガ家はいない。本当に茶道を修めている人から見れば笑いものかも知れないが、一応手に入る範囲のお茶の本、テキストなどには目を通し、それらしく描こうと努力する。
同じような誠意を、武術に対しても示すだけだ。背を丸めガニ股で歩いて来る柔術家とか、喜劇やコントでもない限り、失礼ではないか。
中国では、見てくれだけでハデで役に立たない技を「花拳繍腿(かけんしゅうたい)」と言う。いかに「花拳繍腿」を排して武術アクションが描けるか。ゼロというわけには行かないが、可能な限りゼロを目指す。バカと言う人も多いだろうが、虎は虎のままで美しい。虎に角や翼は要らない。虎を虎のままで描いてはつまらないのではなく、虎を描ききれない自分がいるだけだ。
――山本貴嗣『M4 Featuring METALMAX MOMO』(ビー・エス・ピー、2000年)P240-241
山本貴嗣(やまもとあつじ)の『サンダーボーイ』は、著者の代表作である『SABER CATS(セイバーキャッツ)』への布石となっています。
山本貴嗣『SABER CATS』
https://www.amazon.co.jp/dp/B00QLNKLTU/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_wVL4zb364CYP7
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【「虎は虎のままで美しい」という演出】
理想とする演出は、山本貴嗣『セイバーキャッツ』であり、北久保弘之監督『BLOOD THE LAST VAMPIRE』です。
https://twitter.com/ichirikadomatsu/status/817657735109951488
およそ制作にたずさわっていて、山本貴嗣『セイバーキャッツ』と、岸田劉生『麗子像』を観ていないのは、バカ通り越して創造主への冒涜だと思っている。
https://twitter.com/ichirikadomatsu/status/775222904476672000
かなり極端な言い方をしていますが、もし、二つとも知らないなら、制作でノイローゼになってしまうかもしれません。それだけ、すごいです。なお、岸田劉生『麗子像』については別の機会にしましょう。
『SABER CATS』を知っているかいないかで、演出はかなり変わってきます。
20年も前の作品ですからネタバレしますが、主人公はヒロインを助けに行きますが、仇は討ちません。
父を殺し大切な人を人質にした宿敵から主人公は「復讐せず」に恋人を奪い返します。
それで絵になるのか不思議でしょう? 果たして、「仇を討たない」のに物語は成立するのかという問題もあります。
これがきちんと成立しています。
「仇を討たない」ことで主人公のヒーロー性が損なわれることはありませんし、むしろ清涼感をもって物語は終わります。
読んでいない人には、ポルナレフっぽい不思議ですね。
※ジャン=ピエール・ポルナレフは、荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』の登場人物です。
ちなみにこの作品、作者が道場に通いつめて(実際に技をかけられて)書かれた作品なので、格闘シーンが秀逸です。花拳繍腿がほとんどありません。
北久保弘之監督も「名作『拳児』よりもリアルな感じがしました」と語っています。
そして、『SABER CATS』がなかったら撮れなかったという作品が、北久保弘之監督の『BLOOD THE LAST VAMPIRE』です。
北久保弘之監督『BLOOD THE LAST VAMPIRE』
https://www.amazon.co.jp/dp/B001TC458Q/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_RYI4zbF0DS76W
こちらはハロウィンの話です。詳細については、別の機会にしましょう。
「魂は――魂は嘘をつかない。その日その時その場所で心は姿(かたち)を変えようと、けして魂は嘘をつかない」
――山本貴嗣『SABER CATS』4巻
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