『清二』シナリオ-02

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『清二』シナリオ-02

○神戸市中央区(車内)→路上―《朝》《小雨》
清二が紙コップで珈琲〈ゲイシャ〉を飲みながら、車を運転している。BGMは「ミスティ」。
表示「Geisha」
スマートフォンの地図アプリでLVM神戸研究所へ向かっている。※神戸研究所は海岸近く、神戸支社は三ノ宮近くで、地図にそれぞれマークがある。
はざま企画の派遣の冊子が助手席にある。クリアファイルにLVMの全部事項証明書(謄本)の履歴事項証明書がある。※現在事項証明書・閉鎖事項証明書もあるので3mmと分厚い。
清二のスマートフォンに〈長藻秋詠さま〉から着信。
車を止める。
清二「はい、村田です」
秋詠『村田さん? つかぬことを伺うけれど——ああ……〈セイレーン〉……。その前にもう60センチ前にしてくれるかしら?』
スマートフォンに車載カメラ(外周・室内)が表示される。※秋詠も通信で見ている。
清二「はい?」
秋詠『もう60センチメートル、車を前に、移動してくれるかしら?』
清二「ああ、はい」
移動させる。通行人が気遣う様子はない。
秋詠『ありがとう。——村田さん今朝、女の商売の邪魔をしました?』
清二「いいえ」
秋詠『——では、白い服の女性に、あったかしら?』
清二「いいえ」
秋詠『ああ、16歳の女性なんですけれど……』
清二「あっ……ええ、会いましたよ。雨に濡れていたので傘とタオルをあげました。商品でしたか?」
秋詠『そう、売りものだったんです』
秋詠の深い溜息。深呼吸にかえる。
清二「売りもの? ……なるほど。売春婦だったんですね。それは商売の邪魔でしたね。けれど、未成年でしょう?」
秋詠『未成年ではないんだなこれが。成人女性です』
清二「長藻さんがディスレクシアで数字に甘いのは知っていますが、16歳は未成年ですよ。条例違反です」
秋詠『帰ったら説明しますね」
清二「問題が? この間のような取り返せない問題ですか?」
清二が少しかみしめて、珈琲カップを手にする。
秋詠『大丈夫。先に進んで——伏せろ!」
カップを頭上に、清二が伏せる。衝撃で、珈琲がこぼれる。
左の車載カメラに、LC(レクサス)が突っ込んでくるのが表示される。
アスコットの左後部に激突するLC。
シートベルトをしていなかった小螢(13)が左ハンドルの運転席から外に投げ出され、アスコットの窓から後席に飛び込んでくる。
秋詠『大丈夫? 状況は?』
清二「珈琲をあびただけです。ふう……」
カップをカップホルダーにおいた清二が濡れた髪に手をやり、シートベルトをはずして、グローブボックスを開ける。
清二「無いよな」
清二がポケットチーフで顔をふく。
清二「えっ?」
小螢の足を見た清二が、チーフを落とす。小螢のベビィブルーのチャイナドレスに血がついている。※小螢は裸足。
清二「おい!」
清二が小螢の手首で脈をとる。周囲に呆然と見ているオタク(21)・女1(65)・女2(31)・女3(39)など多数。※全員傘をさしている。
清二「チッ!」
清二が運転席ドアを開けて右後席ドアを開けて、小螢の首に手をやる。
清二「脈がない。——AED!」※小螢の心臓は、無拍動流型人工心臓なのでそもそも脈拍がない。
清二がオタクを指さす。オタクがバックパックを揺らしつつ左右を見て、自分の眼鏡を指さす。
女2「救急です。場所は……」
女2が119番通報している。
清二「お前だ! AED! 急げ!」
清二が小螢の気道を確保しつつ、路上におろす。※アスコットのドアは両方開いたまま。
オタクが急ぎ足でもたつきながら、走り出し、眼鏡を正す。
清二が小螢に心臓マッサージをする。肋骨が折れる音。
清二N「折れたな」
女1「何をするのよ! 痴漢よ、痴漢!」
女1が清二を非難する。清二は無視して心臓マッサージをつづける。
女1「やめなさい!」
女1が清二の手をとめる。清二が手をつかみ返し、手首を起点に転がす。女1が頭から落ちるが、清二が片手で頭をずらして落とす。
女1「ぎゃ!」
女1が背中から落ちる。動けない女1が睨みながら呻く。清二が心臓マッサージをつづける。
オタクがAEDをもってくる。
オタク「もって……きました……」
オタクが肩で息をしている。
スマートフォンのフラッシュが光る。女3が写真を撮っている。
清二「やめさせろ」
オタクに命令する。オタクが近づくと、女3が動画を撮る。
オタク「肖像権の侵害です。民放709条の不法行為による損害賠償です。——故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。——削除しないと訴えますよ。そして確実にあなたは負けます。ごめんなさいは?」
女3「なんであんたみたいなオタクに言われなきゃならないのよ」
女2「こういうことです」
女2が動画を撮る。
女3「何するのよお前!」
女3が女2の髪を掴もうとするが、女2がするりと逃げると、オタクも動画を撮っているのにきづく。
女2「ごめんなさいは?」
女3「ごめんなさい」
女3が雨の路上にへたへたと倒れ込み、データを削除する。
女2「替わります」
女2が、速度が遅くなってきた清二に言う。
清二「それよりAEDのセットを」
女2「はい」
女2がAEDを引きよせる。
オタク「僕が替わります」
清二「お前は——」
女2「遠慮なさい。それより盾になって。見えないように」
オタクが口をへの字にして、周囲の人の盾になった。スマートフォンでゲームをしていた女4(16)が隣にならぶと、他の人もぞろぞろとならぶ。※ゲーム音。
女2が小螢を脱がす。※清二と女2の位置を交替。
女2「えっ?」
小螢のドレスの下は全裸で下着をしていない。指定の場所に電極パッドをつける。
オタクが女4のスマートフォンをのぞく。
女2「あれ? どうして動かないの?」
AEDが動作しない。※無拍動流型人工心臓が正常に動いているので動作しない。
女4のスマートフォンの画面に血がつく。
女4「えっ? 何?」
女3が前のめりで倒れている。倒れている女1の頸部から血が流れている。
オタク「危ない!」
呆然とする女4にオタクがおおいかぶさる。音もなく周囲の人が倒れる。
小螢が目覚め、周囲を確認すると、電極パッドをつけたままアスコットのほうに逃げる。
女2が、AEDのコードにひっかかって倒れる。清二が頭をかかえる。
小螢がパッドをはずし、肋骨の折れた胸をおさえ、アスコットに乗り込み、エンジンをかける。
セルの音が響き(エンジンはかかっていた)、発進させる。清二が後席に乗る。
秋詠『情けは人の為ならず。——そう言うな。私たちと違って、善人なんだよ、村田清二さんは』
小螢が運転席ウィンドーを開け、清二のスマートフォンを捨て、閉じる。
後面ガラスが割れ、運転席のレカロを貫通するが、小螢が低いのでAピラーにあたる。
女2「何?」
女2がへたりこんでいると、救急車が到着する。謝るオタクに、パニック状態の女4が泣きながら軽くビンタしている。

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