「沈黙」という話-15
【ゆるしの秘跡】
カトリック教会の七つの秘跡の一つが、ゆるしの秘跡です。かつては、悔悛の秘蹟や告解と呼ばれていました。いわゆる懺悔(ざんげ)です。
仏教にもあり、懺悔(さんげ)と濁りません。過去の罪を仏や師匠の前で告白して、許しを請うことは同じです。
多くの宗教は、信仰という名のもとに山を登るようなものです。それぞれの教義があり頂を目指します。やり方が違うのは、メートル法か尺貫法の違いのようです。ヤード・ポンド法の「12インチ=1フィート」のように12進法が残っているものもあります。10進法の人から見ると、12進法は異様です。
頂に登ってみても、隣の頂は見えず、比べようがありません。多くは天を目指していますが、高慢になればどれもバベルの塔のようになります。キリスト教には、七つの大罪があります。高慢はその第一です。七つの大罪など、罪については別の機会にしましょう。
ゆるしの秘跡で罪を告白するとしても、それはキリスト教徒だけです。洗礼以後の罪を許す規定ですから。洗礼を受けると、それまでの罪が許されます。単純にいうと洗い流してくれる訳です。汚れを洗い流すことは誰しも経験することでしょう。こうした洗礼はキリスト教徒だけではなく、古い宗教でも行われてきました。
洗礼を受ける前の罪とは何でしょうか。生まれてすぐに洗礼を受ける赤ちゃんにどんな罪があるというのでしょうか。
キリスト教では、信者はアダムとイヴの子孫です。アダムとイヴが、ヤハウェから食べるなと命じられていた禁断の果実(知恵の樹の実)を食べてしまったのが罪です。原罪と言います。こちらも詳しくは、別の機会にしましょう。
無宗教の人からすれば「どうして何千年も前の罪を問うの?」ですが、教義ですから。
ただ、洗礼をしても、人は罪を重ねるものです。そこで、ゆるしの秘跡です。
ゆるしの秘跡ができるのは、イエス・キリストの使徒です。使徒の後継者である司教もできます。司教に叙階された司祭もできます。司祭=神父ですから、映画では神父が多く登場します。
告白を聞いた神父は、「父と子と聖霊の御名によって」罪を許す訳です。神父個人が罪を許しているのではないので要注意です。
罪の告白を聞いた神父は、それを絶対に話してはいけません。弁護士のように守秘義務があるのです。
【北アイルランド問題】
『鷲は舞い降りた』で有名なジャック・ヒギンズの小説『死にゆく者への祈り』では、殺人を犯した元テロリストがゆるしの秘跡を逆手にとり、犯行を目撃した神父にその罪を告白します。神父は目撃証言ができなくなってしまうのです。ミッキー・ローク出演で映画にもなっています。
ミッキー・ローク演ずる元テロリストは、「アイルランド共和軍(IRA)」です。軍といっても、IRAはカトリック教会を信奉する武装組織です。IRAの目的はアイルランドの統一です。
現在のイギリスの正式名称は、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国です。イギリスはプロテスタントで、北アイルランド(北部6州)もプロテスタントです。しかし、残りのアイルランド共和国(南部26州)はカトリック教会です。
戦争です。
1916年の復活祭(イースター)に、植民地アイルランドで武装蜂起がありました。
1919年から1921年にかけて、アイルランド独立戦争です。
1921年に、英愛条約が締結され、アイルランド自由国はイギリス連邦の自治領(ドミニオン)となります。しかし、北部6州はイギリスに残りました。
戦争です。
1922年から1923年、アイルランド内戦です。
1931年に、ウェストミンスター憲章が成立します。アイルランドは、イギリス政府の干渉を受けなくなります。
1949年には共和制国家アイルランドの成立が宣言され、イギリス連邦から独立します。
1998年のベルファスト合意のあと、アイルランド共和国は国民投票で北アイルランドの領有権を放棄します。
そもそもアイルランド共和軍(IRA)は一枚岩ではなく、独立戦争の後にアイルランド国防軍に加わった一派があれば、英愛条約に反対してダブリンの戦いから内戦を始めた一派もありました。武装解決しようとしたIRAも丸くなり、ベルファスト合意をしたのは「IRA暫定派」と言われる私兵組織です。腑抜けたIRA暫定派と別れ、「真のIRA」が誕生します。
やってやられてやられてやって……。どうしてこうなったたかというと、ヘンリー八世が、ローマ教皇のカトリック教会から分離して、プロテスタントのイングランド国教会(聖公会)を設立したからです。