「沈黙」という話-3
【唯一神教】
有名な唯一神教に、キリスト教・イスラム教・ユダヤ教があります。この三宗教で世界のほとんどが覆われています。もともとは預言者アブラハムの宗教から分かれたので兄弟のような宗教です。もっとも、太古の昔から兄弟同士は仲が良くないものです。
『旧約聖書』「創世記」第四章に、カインとアベルの兄弟の話があります。最初の人間アダムとイヴの子供たちです。兄弟は、神に収穫物をそれぞれ捧げるのですが、弟のアベルだけ認められ、兄のカインは無視されます。怒ったカインは顔を伏せます。
神「どうして怒るのですか? どうして顔を伏せるのですか? 正しいことをしているのであれば、顔を上げたらいいでしょう。もし正しいことをしていないのなら、罪が門口に待ち伏せています。罪はあなたを慕い求めますが、あなたはそれを治めなければなりません」
カインはアベルを野原に誘い出して殺してしまいます。最初の殺人です。
神「弟アベルはどこにいますか?」
カイン「知りません。私は弟の番人なのですか?」
これが最初の嘘とされています。殺人者カインは追放されました。
このころの神はけっこう話しています。
【征服者(コンキスタドール)】
サン・フェリペ号の水先案内人が「スペイン国王はまず宣教師を派遣して布教活動で信者を増やして征服してきた」と言ったとされるように、現実にスペインは南アメリカを征服しています。
1521年にエルナン・コルテスがアステカ帝国を、1533年にフランシスコ・ピサロがインカ帝国を征服しました。二人ともスペイン王の認可を得た征服者(コンキスタドール)です。
ポルトガル王国も例外ではなく、ブラジルを植民地にしています。
どうして二国しか登場しないかというと、1493年にスペイン出身のローマ教皇アレクサンデル6世が教皇子午線を決めて、東をポルトガル・西をスペインの領土に決めたからです。
領地が少なくなるポルトガルのジョアン2世は、スペインのフェルディナンド2世と直接交渉して、1494年にもう少し西にずらすトルデシリャス条約を両国で決めました。
植民地を確保できないフランス、イギリス、オランダは面白くありません。
さて、スペイン・ポルトガル両国とも熱心なカトリック教会でしたから、信者以外の異教徒は人間ではないので、あらん限りの酷いことをしました。あらん限りです。
【イエズス会】
プロテスタントに分離する前から、カトリック教会は腐っていました。自浄作用がなくなったカトリック教会に登場したのが、精鋭イエズス会です。
カトリック教会にとってプロテスタントは異教徒です。その対プロテスタント部隊が、イエズス会でした。
イエズス会が他の教派と違っていたのは、教育事業です。イエズス会員は、神学だけでなく、他の学問にも精通していました。当然そうした高等教育を受けたイエズス会員は、カトリック教会内部の不正も黙ってはいられません。このことが原因で後に一時的に衰退します。
高い知性と強い信念の人――これがイエズス会の会員の姿です。各国の学問に通じたエリートです。それが証拠に日本イエズス会は、1603年に『日葡辞書』を刊行しています。日本語・ポルトガル語の総語数3万2293の辞書です。
ただ一方で、イエズス会内部でも武力による征服を検討していました。豊臣秀吉が、カトリック教会信者26人を見せしめにした理由の一つでしょう。
なお、イエズス会はアメリカ大陸でも活躍しており、イエズス会伝道所を設立して奴隷商人から現地人を守っていました。ですが、スペインとポルトガルの奴隷商人と私腹を肥やす政府高官から邪魔者扱いされ、イエズス会追放令が出されることになります。
この様子はローランド・ジョフィ監督作品『ミッション』に描かれています。主人公の傭兵ロバート・デ・ニーロは奴隷商人でもあります。リーアム・ニーソンも出ています。
やがて正義を貫き通すイエズス会は、カトリック教会自身から迫害されるようになります。
1773年にイエズス会は禁止になり、1814年に復興になりました。ちなみに、第266代ローマ教皇フランシスコは初のイエズス会出身です。