『清二』シナリオ-03
○秋詠の事務所→廊下→エレベータ→地下一階→地下通路→隣のビルの地下駐車場《朝》《雨》
フソァーの秋詠がブラウンの956BL(スコッチグレイン)の靴を履く。靴下はタビオ。BGMはマイルス・デイヴィス。「死刑台のエレベーター」は不可。
秋詠が脱いだブラウンのデュバリーのデッキシューズをPCがあるデスク下におく。
鏡の前で、秋詠が左指三本で右頬に手をやる。※入浴して着替えている。
秋詠がボルサリーノのソフト帽のプリムを前後につかみ被る。※映画『サムライ』のアラン・ドロンの被り方は間違い。適当でもよいがクラウンをさわらないこと。
秋詠がカーテンやキッチンのほうを指さし、スナワチのショルダーバッグを手にして、廊下にでる。※MacBook Proが入っている。
秋詠が歩きつつiPhoneを見ずに操作する。ドアがロックする音がする。秋詠が振り返らず視線を一瞬動かす。
旧式エレベータの乗場ドアのフェンスを開け閉めして秋詠一人で乗り込む。
エレベータが四階から地下一階までゆっくりとゆっくりと降りる。
黄琳玲のダークなタイトスーツにフェラガモのピンヒールの赤木南々子(29)が二階から三階に上がっている。秋詠と目があい、ウインクする。プラチナのチョーカーとピアスが光る。
秋詠が軽くうなずいて返す。南々子の脚線美とゼロハリバートンのアタッシェケース。
地下に入ると、エレベータの上に光が残っている。
ビルと同じレンガの壁に鋼板のドアがある。
ドアを開けると、レンガの細い通路がつづいている。
やや暗く水灯になっている。雨の音はしない。
出口の鋼板ドアを開けると、大量の光がさす。隣の地下駐車場にでる。
背後から黒塗りの高級車が近づく。秋詠が視線を一瞬動かす。
サモアオレンジメタリックのアウディ/R8 Spyderと、鸞鳳(らんぽう)/グロリアスグレーメタリックのトヨタ/センチュリーの間に、車はなかった。
秋詠「それは無いよな」
秋詠が指をさす。
上津屋「お前か? 女の商売邪魔しやがって!」
メルセデス・ベンツ/500Eからおりた上津屋了(26)が後ろから殴りかかる。
秋詠がバッグをずらし、その反動で身を反転させ、上津屋をかわす。
上津屋がスキップしてしまう。上津屋が顔を歪ませる。
上津屋が振り返るが、秋詠がその力を利用して床に転がす。
目を見開いた上津屋が懐に手を入れる。秋詠の背後に黒づくめの大きな黒塚(36)がいる。
黒塚「やめーや。お前ごときが勝てるかえ」
帽子を目深にかぶった黒塚が目を細める。上津屋がどうしても立ち上がれない。
秋詠「久し振りだな」
秋詠がゆっくり振り返り、帽子のプリムに軽く指をそえる。
黒塚「旦那は元気しとったんかえ」
秋詠の背後で上津屋が睨んでいる。
秋詠「まだ生きている」
秋詠が肩を竦めた。ようやく上津屋がフラフラと立ち上がる。
黒塚「お互いなかなかくたばらんの」
秋詠「あれは?」
秋詠が背中越しに上津屋を指さした。
黒塚「フッ、弾除けにはなるやろ」
秋詠「あなたのか?」
秋詠が頬を軋ませて笑うが、黒塚は無表情。
黒塚「お前は病院や」
黒塚が上津屋に声をかけると、上津屋が倒れ、瞬きを繰り返す。
黒塚が500Eの助手席(右)のドアを開け、秋詠を見る。
秋詠が乗ると、黒塚がドアを閉め、車を半周して運転席に乗り込む。※電動シートは大柄な黒塚の位置になっている。上津屋が病院送りになるのを予定していたので、黒塚が自分であわせた。
黒塚「ああさき言うとく」
黒塚が脱帽する。
黒塚「お供えありがとうございました」
黒塚が上半身を秋詠にむけ、一礼した。
秋詠「御愁傷様です。伺っても迷惑だからな」
秋詠が苦笑する。
黒塚「ホンマ迷惑やで。行く先先(さきざき)で屠殺(つぶ)しまくるからのお」
黒塚が帽子をただす。後写鏡の上津屋が這っている。
秋詠「他人聞(ひとぎ)きの悪い……」
秋詠が、汗をかきながら上津屋が這っているのを視線で一瞬確認したあと黙る。
黒塚「どこまでや?」
黒塚がエンジンを始動した。BGMはBWV147-10「主よ、人の望みの喜びよ」。
秋詠「茶泉(さいずみ)学院大学医学部附属病院地下一階」
黒塚「クッ」
黒塚が苦笑する。※モルグ(死体安置所)がある。