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解説『手紙は憶えている』映画(2015年)【ネタバレ】

解説『手紙は憶えている』映画(2015年)【ネタバレ】

映画『手紙は憶えている』(原題:Remember)は、アドルフ・ヒトラーの国家社会主義ドイツ労働者党(NSDAP)——ナチスによるホロコースト(大量虐殺)を題材にしたカナダ・ドイツ映画です。アウシュビッツ強制収容所で助かった生存者(サバイバー)の復讐劇です。

 

【あらすじ】

《プロローグ》

老いたゼヴが目覚めると妻のルースの姿がなかった。それもそのはず一週間前にルースは癌で他界したからだ。妻の死すら忘れるほどゼヴの認知症は進んでいた。介護施設の友人マックスによると、亡き妻の前で「あること」を誓ったのだという。忘れても思い出すようにマックスは手紙をしたためていた。ルースの葬儀のあと、手紙と紙幣を手にゼヴが旅立った。

 

《#1》

列車で知り合った少年タイラーと仲良くなり、ゼヴという変わった名前はヘブライ語で“狼”を意味すると答えるのだった。

一方、ゼヴの息子のチャールズは父の安否を気遣っていた。警察には連絡しているのでゼヴがクレジットカードを使えば場所が特定できるらしい。施設の責任者によると、伴侶が亡くなると認知症が進行するケースがあるのだという。義母の葬儀で手一杯だったチャールズの妻のレベッカも最近ゼヴがピアノを弾いていないという……。

列車に揺られうたた寝をしていたゼヴが起きるとまたもルースを探してしまう。眠ると記憶が消えてしまうらしい。利発なタイラーがゼヴにポケットの手紙を教えるのだった。ゼヴは自分の左手に「手紙を読む」と書いた。

駅に到着すると、迎えの車が来ていた。ゼヴは、オーストリア製のグロック17という銃を購入した。

ホテルに着くと、料金はすべてマックスが支払っているという。すべては車椅子に座るマックスの指示通りだった。

旅の疲れからゼヴはバスタブで眠ってしまう。起きてルースを探すが、左手首の「手紙を読む」という文字を見つけ、マックスの手紙を読み、苦悩するのだった。

翌日、ゼヴは第一のルディ・コランダーを訪ねた。アウシュビッツ強制収容所にいたかを確かめるが、第一のルディ・コランダーは北アフリカで国防軍のロンメル将軍とともに戦っていて、親衛隊がおこしたアウシュビッツのことは戦後知ったのだという。そして、ヒトラーは正しいと思っていたと語った。恥ずべきことだが関与していないという言葉は本当だった。

ゼヴはマックスに電話して人違いだと言うが、マックスは最後までやり遂げるんだと激励するのだった。

 

《#2》

マックスによると、終戦末期アウシュビッツの親衛隊が死んだ捕虜の身分を盗んで逃げ延びたらしい。マックスが病に倒れてすぐ、収容所の区画責任者の一人ルディ・コランダーが1940年代に米国に移住した証拠が見つかった。

ホロコーストの記録を保存しているサイモン・ウィーゼンタール・センターの調べではルディ・コランダーは4人いるという。しかし、証拠がなかった。ルディ・コランダーの本名は、オットー・ヴァリッシュで、この男を捜すのがマックスの目的だった。

チャールズの心配をよそに、ゼヴはアウシュビッツ強制収容所にいたという第二のルディ・コランダーに会っていた。

しかし、寝たきりの老人は、オットー・ヴァリッシュではなかった。左腕に囚人番号の入れ墨があったのだ。ゼヴはユダヤ人なのかと聞くが、第二のルディ・コランダーは同性愛者だと答えるのだった。

傷心して座るゼヴの耳に、どこからともなく聞こえてくるピアノの音。モーリッツ・モシュコフスキの曲だった。ゼヴがメンデルスゾーンを奏でた。

 

《#3》

第三のルディ・コランダーは三か月前に亡くなっていた。その息子のジョンの案内で、ルディ・コランダーの遺品を見せてもらうことになった。ハーケンクロイツ(鉤十字)の旗が1938年11月9日にベルリンではためいていたと聞いたゼヴは“クリスタル・ナハト”という言葉を口にした。

“クリスタル・ナハト”とはドイツ語で“水晶の夜”を意味する歴史的な日だった。

第三のルディ・コランダーは単なるナチス狂信者で、別人だった。ゼヴは帰ろうとするが、ジョンに左腕の囚人番号“98814”を見られてしまう。

差別主義者のジョンは怒り犬をけしかけるが、ゼヴが犬もろともジョンを殺してしまった。

一夜明け、ゼヴがマックスに電話した。マックスは冷静に次の順序を伝えるが、無関係の人を殺めたことを伝えた。マックスは最後まで行うか確認した。ゼヴは決着をつけると答えた。

残るは一人。今度こそ家族を殺した奴だった。

ここから【ネタバレ】です。

 

《#4》

過労からか、ゼヴは交通事故にあってしまう。病院からの連絡で、息子のチャールズがやってくるが、ゼヴは「使命」を思い出し病院を抜け、第四のルディ・コランダーを殺しに向かった。

残金が足りなくなり、ゼヴがクレジットカードで支払った。チャールズに連絡が入り、レンタカーで追いかけた。

ゼヴは、第四のルディ・コランダーの娘に案内され、待つ間にピアノでリヒャルト・ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』を弾いた。

やってきた第四のルディ・コランダーが、ホロコーストの生存者がワーグナーを好むことはありえないと言うと、音楽は別だとゼヴが答えた。その声に聞き覚えがあった。

親しそうにする第四のルディ・コランダーにゼヴは銃をつきつけた。ようやく到着したチャールズだったが、ゼヴは銃を第四のルディ・コランダーの孫娘に向け、アウシュビッツ強制収容所の区画責任者だったことを自白させた。

しかし、第四のルディ・コランダーは一つだけ違うという。本名はクニベルト・シュトルムで、オットー・ヴァリッシュはゼヴ自身だというのだ。

クニベルト・シュトルムの囚人番号はゼヴと連番“98813”だった。

ゼヴは自分を“狼”と名づけた。そして“二人とも狼”だと言って……。

ゼヴはクニベルト・シュトルムを撃ち、自分がオットー・ヴァリッシュであることを思い出し、銃で頭を撃つのだった。

 

《エピローグ》

ゼヴがいた施設では、認知症で自分のしたことを理解していないという声があったが、マックスが「彼は自分が何をしたか分かっている」と反論した。

ルディ・コランダーの本名はクニベルト・シュトルムで、ゼヴの本名がオットー・ヴァリッシュで、二人がマックスの家族を殺したのだ。

マックスの机の上には、若かりし頃のオットー・ヴァリッシュの写真があった。

 

 

【鍵】

鍵というか読み解き方ですが、ある程度知識があれば、すぐにオチは分かってしまうんです。ですから謎解き映画としては、イマイチです。

というか認知症の老人が、戦争犯罪者を探すという時点で映画『メメント』で完全ネタバレなんですけど……。

では、この映画の何がよいのかですが、アドルフ・ヒトラーの国家社会主義ドイツ労働者党(NSDAP)——ナチスによるホロコースト(大量虐殺)を知るという意味ではよくできた作品です。

 

《狼》

アドルフ・ヒトラーの“アドルフ”は“高貴なる狼”という意味です。ナチスは、いろいろな作戦や部隊に“狼”の名をつけています。

映画開始8分25秒で、ゼヴがヘブライ語で“狼”を意味すると話しています。すると、タイラー少年が“Cool”と笑います。

カッコイイんですよ。ナチスは。#blackjoke

なぜなら、カッコイイように見えるようにしているからです。ナチスの作戦なんです。これで国民は騙されてしまいました。第一のルディ・コランダーも言っていましたね。あの時のドイツはヒトラーが良くしてくれると信じていたんです。だからこそ、二度と繰り返さないために、こうした映画が作られるのです。

 

《アウシュビッツ強制収容所で殺されたのはユダヤ人だけではない》

そもそも人種としては、ユダヤ人は存在しません。あれはユダヤ教を信じる民族です。同じように、ナチスのいうアーリア人もいません。それだけ特別で優秀なら遺伝子が違っていると思いますよ。#joke

アウシュビッツ強制収容所では、ユダヤ人の他にもさまざまな民族やが殺されました。作中にあるように同性愛者はもちろん、精神障害者や身体障害者もです。要するに反対するものはすべて殺してしまったのです。

 

《グロック17》

『ダイ・ハード2』で「空港のX線検査に映らない」ことで有名になったグロック17ですが、ちゃんと映ります。おもちゃみたいですが、軽くて扱いやすいそうです。店員がすすめるのも理解できます。

グロック17はオーストリア製です。はい、オーストリアと言えば?

実は、アドルフ・ヒトラーはもともとドイツ人ではではなく、隣のオーストリア人でした。知っている人からすると、けっこうなジョークです。

 

《ハーケンクロイツ》

ドイツでは、公の場でハーケンクロイツ(鉤十字)の旗を使ってはいけないことになっています。

日本の寺の地図記号としては「卍」が使えますが、海外向けには遠慮したいところです。なお、卍も卐も漢字です。記号ではありません。

 

《“クリスタル・ナハト”》

1938年11月9日に、ベルリンで“クリスタル・ナハト”がありました。この日からユダヤ人が迫害されるようになりました。“水晶の夜”とは、割れガラスが月夜できめらいて水晶のようだったからです。

 

《リヒャルト・ワーグナー》

アドルフ・ヒトラーはリヒャルト・ワーグナー大好き人間でしたから、ワーグナー=ナチスの音楽といっても過言ではありません。

第四のルディ・コランダーが、ホロコーストの生存者がワーグナーを好むことはありえないと言うのも分かります。聞くだけで当時を思い出してしまいますよ。

まま、ゼヴのいうとおり、音楽は別だというのも理解できます。

とはいえ、フランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』の『ヴァルキューレ』のように「死」を意識させることは確かでしょう。

 

【とある考察】

というか想像で、オットー・ヴァリッシュとクニベルト・シュトルムは、ラヴラヴだったとか? #joke

 

【Remember】

“Remember”は、「思い出す」「記憶している」という意味です。風化しないためにも、単なるサスペンス作品としてではなく、背景を深く考えたいものです。