「第三の視点」による倒叙記述(6)代理店(デザイナー)
【代理店(デザイナー)】
“NeXT”
《言葉ではなく意匠》
〈「はじめに言葉ありき」〉
物の本に「はじめに言葉ありき」とあります。
聞いたことはあるかと思います。書かれているのは『新約聖書』「ヨハネによる福音書」第一章第一節――それこそ一番はじめに書かれています。
「ヨハネによる福音書」のヨハネは、イエス・キリストの十二使徒(しと)の一人です。
レオナルド・ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』で、イエス・キリストの(向かって左)隣の人物が使徒ヨハネとされています。
なお、「ヨハネによる福音書」では正しくは「イエスの愛しておられた弟子」と書かれています。詳しくは、『「沈黙」という話-013』(https://ik137.com/silence-013)など、【「沈黙」という話/「東アジアの思想」という話】(https://ik137.com/list-silence)を参照してください。
『新約聖書』による意匠(デザイン)の話(象徴/記号(シンボル)・指標(インデックス)・図像(イコン/アイコン))は別の機会にしましょう。
さて、人間の社会は言葉によって成り立っています。あらゆる法は言葉で書かれています。完全な形で残る最古の法典「ハンムラビ法典」は紀元前18世紀の発布です。
意匠(デザイン)のみで書かれた法はありません。
〈“in other words”〉
言葉を使うのが、人間の営みです。しかし、およそ同じ人間とは思えない変な生命体が、デザイナーです。言葉ではなく、より原始的な図絵(アート)を使うのですから。#blackjoke
前述〔原文ママ〕のメディアは、“NeXT”の意匠(デザイン)です。
※述べていないので、正しくは「前掲」ですが、言葉による表記なので〔原文ママ〕としています。
代理店(コピーライター)の答えが“in other words”なのは、事実なので、#blackjokeもなしにそのまま表記しています。
代理店(デザイナー)も同じなので、“NeXT”だけにしようかとも思ったのですが、読んでいる人の多くは変な生命体ではありませんからね。#blackjoke
〈“NeXT”〉
天才スティーブ・ジョブズの“NeXT”は、代理店(デザイナー)なら誰でも知っている話です。というか知らないとかありえません。必ず知っている話です。
“NeXT”は、創業したアップルから追い出された(!)スティーブ・ジョブズが創り、アップルに帰るまでにあったブランドです。
意匠(デザイン)の制作はポール・ランド。名は知らなくても、“IBM”のロゴは知っているでしょう。
「私があなたの問題を解決し、料金をいただきます。私が作るものをあなたは使ってもいいし使わなくてもかまいません。でも、複数案を出すことはしません。いずれにしても料金はいただきます」
――ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズI』(講談社、2011年)P343
価格は10万ドル。
ロゴにここまでこだわる必要などないと思う人もいるだろうし、まして、10万ドルは高すぎると思う人が多いだろう。しかしジョブズは、ネクストが世界的なイメージとアイデンティティを持ってスタートするためには必要なことだと考える。製品の設計さえまだしていなくても、だ。マークラが教えてくれたように、人は表紙で書籍を評価する。だから、第一印象からその価値を刷り込めなければ偉大な会社にはなれない。それに、できあがったロゴはとてもクールだった。
――『スティーブ・ジョブズI』P344
それだけの価値はあったのです。
スティーブ・ジョブズは、“NeXT”のデザインに10万ドル支払うことで、iPhoneをつくることができたと言えるのですから。
〈A案〉
巨匠ポール・ランドは、複数案を出しませんでした。
「第三の視点」による倒叙記述では、提案はA案のみです。B案、C案はありません。
論題(テーマ)を決め、「さまざまな意見を戦わせることで、より優(すぐ)れた答えを導き出すため」(※)に議論(ディベート)が行われます。
※瀧本哲史『武器としての決断思考』(星海社、2011年)P45-46
導き出された「いまの最善解」が、クライアントにとって受け入れ難いとしても、他に選択肢はありません。一択です。#joke
それに、仕事を行う下準備として、デザイナーは芸術大学や専門学校に入る前の幼いころから意匠(デザイン)を学び、意匠(デザイン)とは何かを問うてきたはずです。その答えが毎回一つあるだけです。
その生涯学習の集積時間と、問いに答える時間が、制作時間です。
《広告はクライアントのもの》
「第三の視点」による倒叙記述において、クライアントの言葉は、代理店(コピーライター)では“in other words”であり、代理店(デザイナー)では“NeXT”と表現されます。
そして、広告はクライアントのものです。広告に、代理店(コピーライター)や代理店(デザイナー)の名が載ることはありません。
【参考文献その他】
*瀧本哲史『武器としての決断思考』(星海社、2011年)
*ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズI』(講談社、2011年)